この度、東京で2つの展覧会を企画致しました。
一つ目は千代田区九段南にあるイタリア文化会館において2月14日より始めます彫刻写真展です。
「Le Paradis Terrestre – 地上の楽園」と題しまして、イタリア抽象彫刻界の巨匠カルロ・セルジオ・シニョーリ(1906-1988)の彫刻を5点、彫刻写真30点展示いたします。僕が初めてイタリアに渡ったのが1998年。当然彼とは面識がありませんが日本人である彼の奥様、柿沼冨美枝さんを通してシニョーリ作品と彼の生き様に触れる機会を頂きました。その作品から感じたシニョーリの制作に対する真剣な姿勢は今でも僕の彫刻制作の指針となっています。
そんな彼の作品がカッラーラの小さな倉庫に鮨詰め状態で保管され、誰の目にも触れることの無いまま数十年の時が経ちました。2016年に冨美枝さんやご家族に再会した際、作品をリスト化して欲しいと依頼されたのを機に歴史的な傑作を沢山の人達に見ていただきたいと日本から写真家・中村治さんを連れて全115作品を撮影してまいりました。狭い倉庫内での劣悪な撮影環境にもかかわらず中村さんは見事に作品のフォルムが作り出す空気ごと撮影してくださいました。
生涯を制作に捧げたシニョーリはヨーロッパでは知られた彫刻家ですが、日本においては無名の存在です。今後は日本から、彼の輝かしい功績を再び世界へ発信していきたいと思っております。是非皆様の目でその美しいフォルムをご覧いただけますようお願い申し上げます。
もう一つは同じく2月14日より、明治神宮廻廊において「神宮の杜に集う彫刻家たち」と題しまして、日本から彫刻の聖地に移り住み、今も制作を続ける現代彫刻家31名による彫刻展を開催いたします。
彫刻の聖地とはシニョーリの暮らしたイタリアのカッラーラやピエトラサンタのことです。良質な白大理石が産出することから数千年に渡り彫刻家が集う町となっています。
元々は先に記載しましたシニョーリ彫刻写真展を盛り上げようと、シニョーリを知る日本人彫刻家たちに力を借りて関連展示として企画しました。どこか沢山の人が訪れる場所でと探す中、人との出会いやタイミングに恵まれ明治神宮鎮座百年の年に奉納展として開催させていただく運びとなりました。本殿を囲む廻廊をすべて使って彫刻展示を行うのは明治神宮百年の歴史上初めてのことであります。参加するのは現代彫刻界を牽引する著名な作家ばかりです。これだけ様々な世代の作家が一堂に会することはまず無かったであろうと自負しております。また、アドバイザーには新国立競技場や明治神宮ミュージアムを設計されました世界的建築家の隈研吾氏を迎え、ご指導いただいております。
彫刻家は本来孤独な存在です。しかし先人たちが作り上げてきた過去という宝箱は誰にも平等に、惜しむことなくその成果を見せてくれます。今を生きる我々は無意識的に過去から何かを引き継ぎ、そして自分の今を作り上げていきます。暗闇の中で過去が照らしてくれる未来というほのかな明かりを頼りに。
どうぞ2つの展覧会を併せましてご高覧いただき、人間の起こり以来ずっと続いてきたであろう美への探求の軌跡をご覧いただければ幸いです。
2020年2月
越境する芸術プロジェクト
代表 安部大雅